Be Good Boys

10本のグレーテスト・ロック映画を選んでみたよ!後編
うざい世の中、だめな気分をロッケンロールで吹き飛ばそう!

Kenji Muroya


4. 連れて行くよロックの現場に、タイニー・ダンサー!

 若者文化として成長し、急速にビジネス化された70年代のロック。その様子を現場でリアル体験した人間が脚本・監督して発表した痺れる映画が2001年アカデミー賞に輝いた。ロックが厳格な学校教育の壁を揺すったら…2000年代の傑作ロック映画をチェック!

『スクール・オブ・ロック』
School of Rock(2013)


 売れないロックンローラー、デューイが名門私立学校の教師になりすまし、小学4年生のクラスに。だが、規律の多いせいか子供たちはどこか無気力。しかし、あもなく音楽の授業で彼らに音楽的才能があることに気づいた、このハチャメチャ男は、彼らとバンドを組んでバンドバトルに出場することを思いつく。AC/DCだのサバスだの、クリームだの口から泡のようにほとばしる先生の言葉に初めはとまどっていた子供たちだが、その陽気な人柄と情熱、ロックの開放感、そして何よりもありのまま自分たちを認めてくれる彼に惹かれるようになり、猛練習が始まる……。
 2003年に公開されると、全米はもとより世界中で絶賛の嵐。音楽コメディ映画の史上最高の興行成績を記録したこの映画、その最大の魅力は、主役のジャック・ブラックと千人のオーディションから選ばれた子供たちとの、実にリアル感ある活き活きとした交流だろう。実際に自分たちで楽器を演奏する子供たちの影には猛特訓あり。ソニック・ユースなどに在籍したにほんでも おなじみのジム・オルークがコンサルタントとして音楽指導。「子供たちはあっという間にめきめき上達して、俺なんかよりうまくなっていたよ!」とブラック。楽曲の使用許可がおりないレッド・ツェッペリンに宛てて、フィナーレのバトル会場のエキストラ全員と「ロックの神よ!許可をくれ!」とビデオ・レター。たちまち許可がおりたとか。映画前編からロック音楽への愛がほとばしる、大傑作だ。
 この映画でジャック・ブラックが大ブレイクしたのはもちろんだが、おしゃまな優等生でバンドのマネージャー役をつとめたサマーを演じたミランダ・コスグローヴもヤングティーン向けコメディシリーズ『iCarly』の主役カーリーに抜擢され、大スターになったのは知る人ぞ知るところ。

『あの頃ペニー・レインと』
Almost Famous(2000)


 今でもよく覚えている。当時、ロック好きな若者たちなら誰もが愛読した、若者の若者たちによる、若者音楽文化のマガジン『ローリング・ストーン』。その雑誌に若干15才で、ニール・ヤングやジャクソン・ブラウンにインタビューし。、デビィッド・ボウイやイーグルスと同行し、次々、彼らの発言や行動を赤裸々な記事として発表するロック・ライターが現れたのだ。その神童の名はキャメロン・クロウ。この映画は、その彼がそれまでの自分の半生と、当時の体験をもとに脚本を書き、監督・製作して発表した作品だ。
 登場するのは主人公ミラー少年の高いIQに早い時期に気づき、5才で学校へ入れ、飛び級もさせ、本人にも実の年齢を偽り、まわりの悪い虫を摘みとりながら、手塩にかけれ育ててきた教育者の母親(アカデミー女優、フランシス・マーモンドが好演)。母親の重圧に耐えられなくなり、ベッドの下のレコードコレクションを弟に残し、家を出てスチュワーデスになる姉。姉の置き土産でロックの魅力に目を見開き、地元サンディエゴの地方紙に投稿した少年のレコード評に才能を見て取り、励ましつつも忠告の言葉をかける、実在の伝説的ロック・ライター、レスター・バングス(シーモア・ホフマンが、リアル感120%生き写しだった!)。そして彼の年齢を知らずに電話で新進ロックバンド、スティル・ウォーターのツアーに同行して、取材原稿の依頼をする、これも実在のローリング・ストーン紙編集者のベン・フォン・トレス。最初彼を“エネミー!”と警戒しながら、すぐに心ゆるすバンドの人気フロントマン、ラッセル(ビリー・クラダップ)。そして始まった少年のロック・ジャーニーをときめきと失意、希望と裏切りのメリーゴーランドに導く、グルーピー軍団のリード・ヒロイン、ペニー・レイン(ケイト・ハドソン)。
公開されてすぐの興行成績はあんまり芳しくなかったが、あの普段は気難しい映画批評界の首領、ロジャー・エバートが「おもしろく、かつ感動的!しっかり書き込まれた物語とディテールの豊かさ、優れたキャスティング!まちがいなく今年最高の映画だ」ともろ手を上げて、満点5つ星で大絶賛。クロウ監督の古巣、RS紙の批評家は「『ヤァ!ヤァ!ヤァ!』以来、音楽の流れてくる場所に、これほど心地よく連れていってくれる映画はなかった」とした。それをそのはず、60〜70年代の最良のロックをその最前線の現場で生で見聞きしてきた彼、当時の妻だったハートのナンシー・ウィルソン、さらに音楽コンサルタントとして加わった友人のピーター・フランプトンと、サウンドトラックの選曲から、劇中のスティル・ウォーターの演奏曲を作詞、作曲。録音にはペール・ジャムのギタリスト、マイク・マクリーディらが参加し、完璧の構え。翌年のアカデミー賞では多数の部門にノミネートされ、最優秀オリジナル脚本に加え、最優秀サウンドトラック賞を受賞した。

5. みんな違って、それでいい!性差別の壁も超えて

 “セックス、ドラッグ、ロックンロール”なんてわざわざ汚名そそぐような文句もあったけれど、ロックには心の内面を見つめる、スピリチュアルな力もある。ロック映画もおなじ。愛ってなんだ、人生って…と問いかける、こんな映画もあるんです。

『ヘドウィグとアングリーインチ』
Hedwig and the Angry Inch(2001)


 最初オフ・ブロードウェイでミュージカル上演。ロングランとなって、原作者ジョン・キャメロン・ミッチェルが監督・脚本・主演をつとめて映画化された。
 旧東ドイツ生まれで、恋したアメリカ兵と国を出るため、性転換手術を受け。ロックシンガー“ヘドウィグ”となった彼/彼女が、幼い頃母から聞いたプラトンの「愛の起源」のような自分のかたわれを探して全米各地をめぐる物語。失恋、貧困、裏切り、苦渋をなめた人生を綴った彼女の魂の歌が素晴らしく、ブロンディのデボラ・ハリーが惚れ込み、あのマドンナが楽曲を欲しがり、デビィッド・ボウイがLAでの上演をプロデュースしたことも話題となって人気は沸騰!21世紀のロック・ムービーとしては人気ナンバーワン。日本でも三上博史や森山未來らが主演でいくどとなく上演、2014年にはついにブロードウェイで上演され、トニー賞に輝き、2017年にはケネディ・センターと現在でも世界のどこかで上演が続く。“真にロックするベスト・ロック・ミュージカル!”(ローリング・ストーン誌)だ。
 女装や同性愛者を正面からギンギンに取り上げた映画というと、イギリス製作の『ロッキー・ホラー・ショー』(1975)を思い出す人も多いだろうが、この映画、ミュージカルもコスプレやカツラ(ヘッド・ウィグ)をつけてファンたちが劇場に集まり、観客参加シアター的空間をつくることでも有名になった。愛と自由を求める人々の叫びはベルリンの壁も性差別の壁も、崩していったのだ。トランプ大統領は観たかな?ちなみに2台目ヘドウィグを演じて絶賛されたブロードウェイのスター男優、ニール・パトリック・ハリスは同性結婚をしてカミングアウト。世のLGBTの認知度を飛躍的に変える大きな役割を演じた。

『ウッドストックがやってくる』
Taking Woodstock(2009)


 『ブロークパック・マウンテン』で中国系アメリカ人として初のアカデミー作品賞を受賞したアン・リー監督が、1969年のウッドストック・フェス開催に一役かった地元の青年だったエリオット・タイバーの体験記をもとに映画化。
 見事にあの歴史的イベントの模様を再現してカンヌ映画祭のパルム・ドール賞にもノミネートされ、話題を呼んだ。
NYCでインテリア・デザイナーをしていた気弱な青年エリオットは、故郷べセルの田舎町で営業不振に陥ったモーテルを営むロシア移民の両親を助けようと帰ってくるが、待っていたのはベトナムでトラウマを負った帰還兵の同級生(エミール・ハーシュ)や旧態依然、保守的な住民たち。解決の糸口を探そうと小規模なアート・フェアを企画したりするうちに、大きな音楽フェスの開催地を探す人々のことを知る。連絡を取るとヘリコプターで飛んできたのは、スター・ミュージシャンのような若いヒッピー・プロモーター、マイケル・ヤスガーを紹介して、自分のモーテルもスタッフ宿泊地として契約、あとは開催に向けて…という所だったが、巻き起こった住民の反対運動、金の匂いを嗅ぎつけ訪れるマフィアたち、大挙現れた長髪のヒッピーたちで大混乱となる……。
ウッドストック開催秘話をベースに、原作者の精神的めざめ、ウィーングアップ体験を絡ませたこの映画、ベトナム戦争にドラッグ、さらにフェスの半月前に起きたゲイ・ムーブメントのエポックとなったストーンウォール事件……たくさんの要素を盛り込みすぎたのだろうか?いざ封切られると興行成績は鳴かず飛ばずの大不振。撮影中のエキストラ募集には、若者史に残るイベントを追体験したいというネオヒッビー風若者たちが何千人と応募して、大きな話題になったというのに。
ジャニスやジミ・ヘン、サンタナ、ステージを彩ったロックスターたちの演奏シーンも音楽もない、出演者たちに大物スターのひとりもいない、そんなことが客足に響いたたのだろうか?それでも、主人公エリオットが“宇宙の中心を一目見てこい!”と薦められ、会場内で出会ったやさしいヒッピーカップルに導かれ、人生最初のサイケデリック体験をするシーンは、これまでのどんなロック・ムービーと較べても白眉のできばえ。
世紀のロック・フェスティバルとはいえ、大事なのはそこでどんな体験をして、その発見をその後の人生にどう活かしたか、なのですよ……そんなアン・リー監督のこの映画に寄せた思いが全編から伝わってくる。この10本の中では最も不人気で知られていない作品だが、あえて僕はプッシュしたい。来年で50周年、再上映される機会もあるだろうから、その時は是非、ご覧いただきたい。
『ウッドストック、愛と平和と音楽の三日間』『ラスト・ワルツ』などのドキュメンタリー作品は除いた。『ドアーズ』『RAY/レイ』などのバイオ系劇場映画もしかり。だってミュージシャンのファンたちはみんな勝手で好き嫌いは千差万別だもの。あえて一本あげるなら、あのロットン・トマト映画評サイトで唯一の百点満点、ゲリー・バジーが自ら歌ってロックした『バディ・ホリー・ストーリー』(1979)がおすすめかな。いや、ギャングスター・ラップのNWAを描いた『ストレート・アウタ・コンプトン』(2015)も超良かったっけ……あ、どうしよう、また、とまらなくなる〜〜。

室矢憲治 Kenji Muroya (ムロケン)
東京生まれ、ニューヨーク育ちの作家、詩人、ジャーナリスト。滞米中の少年時代にビートルズのファーストUSツアーやボブ・ディランの“ロック転向”コンサート、ウッドストック・フェスティバルなどアメリカ若者文化の歴史的事件をリアル体験。以後海外の音楽シーンを『ミュージック・マガジン』や植草甚一、片岡義男らと創刊した『宝島(ワンダーランド)』らに紹介。NHK-FM「若いこだま」DJ、フジTV「TVジョッキー」などメディア・パーソナリティとしても活躍。90〜00年代には『SWITCH』『BT』『朝日ジャーナル』誌などにレギュラー寄稿。FM J-WAVEでロバート・ハリスらと立ち上げた「ボヘミアン・カフェ」はポエトリー・リーディング・ブームを巻き起こす。マルチトーク&ライブ・イベント『MUROKEN NOW!』を主催。『ニール・ヤング詩集』『ウッドストックへの道』(小学館)など著訳書多数。(www.muroken.com/

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